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大阪地方裁判所 昭和58年(ヨ)141号 決定 1983年3月22日

昭和五八年(ヨ)第一四一号事件申請人、

全日本運輸一般労働組合関西地区

同年(ヨ)第四〇六号事件被申請人(以下「申請人」という。)

生コン支部

右代表者執行委員長

武建一

昭和五八年(ヨ)第一四一号事件申請人、

全日本運輸一般労働組合関西地区

同年(ヨ)第四〇六号事件被申請人(以下「申請人」という。)

生コン支部安威川生コン分会

右代表者分会長

寺本勉

右両名代理人弁護士

西本徹

関戸一考

田窪五朗

昭和五八年(ヨ)第一四一号事件被申請人、

安威川生コンクリート工業株式会社

同年(ヨ)第四〇六号事件申請人(以下「被申請人」という。)

右代表者代表取締役

田中一郎

右代理人弁護士

腰岡實

右当事者間の頭書各仮処分申請事件について、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

一  申請人らが共同して被申請人に対し金二〇万円の保証を立てることを条件として、

1  被申請人は、別紙物件目録(略)(二)記載の自動車を本仮処分決定正本送達の日から二日以内に撤去せよ。

被申請人において右自動車を撤去しないときは、申請人らの申立を受けた大阪地方裁判所執行官は、被申請人の費用で右自動車を撤去することができる。

2  被申請人は、申請人らの組合員が別紙物件目録(三)記載の建物部分(申請人ら組合事務所)に出入りするため同物件目録(一)記載の鉄製波板部分を通行するのを、右波板部分に施錠するなどして妨害してはならない。

被申請人において右波板部分に施錠して右通行を妨害するときは、申請人らの申立を受けた大阪地方裁判所執行官は、被申請人の費用で右施錠を開放することができる。

3  被申請人は、申請人らが別紙物件目録(三)記載の建物部分(申請人ら組合事務所)を組合事務所として占有使用するのを、妨害してはならない。

二  申請人らのその余の申請を却下する。

三  被申請人の申請を却下する。

四  申請費用は、両事件を通じ、被申請人の負担とする。

理由

第一当事者の求めた裁判

(昭和五八年(ヨ)第一四一号事件)

一  申請人ら

1  被申請人は、別紙物件目録(二)記載の自動車を本仮処分決定正本送達の日から二日以内に撤去し、かつ、同物件目録(一)記載の鉄製波板部分につき、申請人らが通行する場合、施錠するなどして、通行を妨害してはならない。

もし、被申請人が右撤去をしない場合及び申請人らの通行を妨害する場合は、申請人らの申立を受けた大阪地方裁判所執行官は、被申請人の費用で、右自動車を撤去し、施錠を開放することができる。

2  被申請人は、申請人らが別紙物件目録(三)記載の物件を使用・占有するのを妨害してはならない。

もし、被申請人が右使用・占有を妨害する場合は、申請人らの申立を受けた大阪地方裁判所執行官は、被申請人らの費用で、適当な方法で右使用・占有の妨害を排除することができる。

二  被申請人

申請人らの申請を却下する。

(昭和五八年(ヨ)第四〇六号事件)

一  被申請人

申請人らは、別紙物件目録(三)記載の建物部分につき、労働組合事務所に用いる等して、被申請人の占有を妨害してはならない。

二  申請人ら

1  被申請人の申請を却下する。

2  申請費用は被申請人の負担とする。

第二当裁判所の判断

一  当事者

次の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

1  被申請人

被申請人(以下「会社」という。)は、生コンクリートの製造販売等を業とする株式会社であり、全社員は二九名(但し、うち二名は役員兼務)である。

2  申請人

申請人全日本運輸一般労働組合関西地区生コン支部(以下「支部」という。)は、生コン産業で働く労働者を中心にした全日本運輸一般労働組合の支部であり、同全日本運輸一般労働組合関西地区生コン支部安威川生コン分会(以下「分会」という。)は、会社の社員二一名の組合員で構成された支部の分会である(以下支部と分会を合わせて「組合ら」という。)。

二  昭和五八年(ヨ)第一四一号事件について

1  被保全権利

(一) 疎明資料によれば、次の事実が一応認められる(一部、当事者間に争いのない事実を含む)。

分会は、昭和五四年一一月頃会社から、会社の敷地より歩いて二、三分離れた会社構外にある木造平家建建物、約一八平方メートル(以下「件外建物」という。)を組合事務所として無償で借り受け、以後これを占有使用してきたが、同建物には水道・トイレ・電話の設備がなく、組合事務所としての使用上きわめて不便であったため、会社に対し、会社構内にある企業施設の適当な場所を組合事務所として供与して貰いたい旨強く要求していた。組合らは、昭和五六年一〇月七日頃会社との間で、右組合事務所の供与問題につき折衝した結果、会社の代表者田中一郎から、会社の食堂であり、従来分会が事実上組合事務所代わりに使用することもあった本件建物部分を、補修のうえ会社から組合事務所として無償で貸与を受けることの了承を得、間仕切りその他具体的な補修等については秋田茂人工場長と組合らとの協議に委ねられた。組合らは、秋田工場長との間で右協議をしたが、当時分会には二五名の組合員がおり、本件建物部分に間仕切りをすると組合事務所として手狭になるところから、結局、同月一五日頃双方の間で、間仕切りをせず土間部分を畳の間にしたうえ、同建物部分を食堂と兼用で組合事務所として使用するとの了解がなされた。そこで、会社は、土間の通路部分を除く本件建物部分の全面に畳を敷き、壁や天井に化粧板を張るなどして内装工事をしたうえ、同建物部分を組合らに貸与したので、組合らは、組合事務所を会社構外の件外建物から会社構内の本件建物部分に移転し、同建物部分に組合ら専用の事務用机・椅子・書棚・黒板等什器備品を搬入、設置して、その占有を開始するとともに、以後同建物部分において分会大会・学習会等を開催するなどして、これを継続的に組合事務所として占有使用してきた。

ところが、会社は、昭和五八年一月一五日会社構内の出入口付近に、「昭和五八年一月一五日より当所会社はロックアウトに入りましたので、立入を禁止する」旨の告示をするとともに、別紙物件目録(一)記載の鉄製波板及び有刺鉄線を設置し、また出入口の門柱から約二〇メートル離れた会社構内の通路上に同物件目録(二)記載の自動車を横向きに置くなどして、組合ら所属の組合員が本件建物部分に出入りすることを不可能にした。その結果、組合らは、以後同建物部分を組合事務所として占有使用することができない状況にある。

(二) 会社は、会社が組合らに対し組合事務所として貸与し、組合らが現に占有使用しているのは件外建物であって、本件建物部分を組合事務所として組合らに貸与したことはないと主張するが、事実は前記認定のとおりであって、会社の右主張は当たらない。

(三) 会社は、組合らは会社の食堂である本件建物部分に勝手に事務用机・椅子・書棚等を搬入してこれを不法占拠していたところ、非組合員は右建物部分から組合らの右不法占有物件を全て取去し、同建物部分を本来の食堂として回復したので、組合らの本件建物部分に対する占有権は存しない旨主張する。

しかしながら、組合らが本件建物部分を勝手に不法占拠したものでないことは前記認定事実によって明らかであり、疎明資料によれば、組合らは、本件建物部分を組合事務所として借り受けた後、同建物部分の管理を厳重にするため、昭和五七年八月頃会社から同建物部分(組合事務所)の鍵を預り、今日までこれを保管所持していること、本件建物部分にあった組合ら什器備品が非組合員によって同建物部分から撤去されたのは、組合らが会社に対し組合らの同建物部分に対する占有使用妨害禁止の本件仮処分を申請した後に、急拠実力をもってなされたものであることが一応認められ、右認定事実に照らして考えると、組合らの本件建物部分に対する占有権は未だ完全に消滅したものとは認め難いというべきであるから、会社の右主張は採用し難い。

(四) 会社は、分会が昭和五七年一一月二二日以降ストライキを継続しているため、会社はこれとの対抗上やむなく同五八年一月一五日からロックアウトに入ったものであり、そのロックアウトに伴い、組合らは本件建物部分に対する占有使用権を有しない旨主張する。

しかしながら、疎明資料によれば、分会がストライキを行ったのは、昭和五七年一一月二二日の全日と同月二六日の午前八時一五分から同八時三五分までの二〇分間のみであったことが一応認められ、本件全疎明資料によっても、右日時以外に組合らがストライキ等の争議行為を行ったことを認めるに足りず、まして、当時労使の勢力の均衡が破れて会社側が著しく不利な圧力を受けている情勢にあったことを認めるに足りない。したがって、会社が行っている前記認定のロックアウトは、組合側の争議行為に対する対抗防衛手段として相当性を欠いており、正当なものとはいえないのみならず、ロックアウトによって労働者の組合事務所への出入りを遮断することは正当な行為とは解し難いから、会社の右主張は理由がない。

(五) 以上によれば、組合らは、会社に対し、本件建物部分の占有権に基づき、前記自動車の撤去を求める妨害排除請求権、申請人らの組合員の前記鉄製波板部分の通行に対する妨害排除ないし妨害予防請求権並びに組合らの同建物部分の占有使用に対する妨害排除ないし妨害予防請求権を有する。

2  保全の必要性

疎明資料によれば、組合らが会社から組合事務所として貸与を受けた本件建物部分は、実際上、組合活動の本拠として組合らの運営、ひいては団結権確保の手段としての機能を果たしているものであること、しかるに、組合らは、会社の違法なロックアウトにより、その所属の組合員が本件建物部分に出入りすることを遮断され、同建物部分を組合事務所として占有使用することができなくなり、そのため、会社に対し企業運営の正常化を求めて組合側の対策を協議する緊急の必要があるにもかかわらず、集会その他の組合活動が阻害されていることが一応認められ、このまま事態が推移すれば、組合らは、回復し難い損害を蒙るおそれがあるものと推認される。したがって、本件仮処分については、保全の必要性が存するものというべきである。

3  仮処分の方法

ところで、組合らは、会社に対し、本件申請の趣旨1及び2の各後段において、予め、会社が右各前段の仮処分命令を履行しない場合を慮って、代替的にその違反の結果を除去することができる旨の命令を求めている。そこで、以下、右趣旨の命令の可否について検討するに、本件申請の趣旨1の後段の申請部分については、会社のなすべき作為又は不作為義務が具体的に明示されており、会社において右作為又は不作為義務を任意に履行しないおそれのあることが疎明資料によってうかがえるから、仮処分の緊急性にかんがみ、仮処分の目的を達するに必要な処分として、右趣旨の命令を発するのが相当であるが、本件申請の趣旨2の後段の申請部分については、申請人らの申立を受けた執行官において執行すべき具体的内容が特定されていないから、右趣旨の命令を発することは許されないものといわざるを得ない。

三  昭和五八年(ヨ)第四〇六号事件について

会社は、本件建物部分を所有するところ、組合らは無権限でこれを組合事務所として不法占拠したので、会社は組合らに対し所有権に基づく妨害排除請求権を有する旨主張する。

しかしながら、疎明資料によれば、会社が本件建物部分を所有していることが一応認められるけれども、前記認定のとおり、組合らは、昭和五六年一〇月七日頃会社から本件建物部分を組合事務所として借り受け、以後その占有使用を継続してきたものであり、組合らは同建物部分についてこれを占有使用する権限を有しているものというべきであるから、会社は、その貸主として、同建物部分を組合らに組合事務所として使用収益させる義務がある。したがって、会社は、組合らに対し、本件建物部分について所有権に基づく妨害排除ないし妨害予防請求権を有しないといわなければならない。

してみれば、本件仮処分申請は、被保全権利を欠き、失当である。

四  結論

よって、組合らの会社に対する昭和五八年(ヨ)第一四一号事件の本件仮処分申請は、主文第一項掲記の限度で理由があるから、組合らが共同して会社に対し金二〇万円の保証を立てることを条件として、これを認容し、その余は失当であるから、これを却下し、会社の組合らに対する同年(ヨ)第四〇六号事件の本件仮処分申請は、被保全権利についての疎明がなく、疎明に代えて保証を立てさせることも相当でないから、これを却下し、申請費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条但書を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 竹原俊一)

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